同じ階級の使節団の長、たとえば大使の席次は、人柄でも国力でもなく、任務開始の日時の順で定まります。外交関係に関するウィーン条約の第16条が定めるこの規則に、エグゼクティブが国際プロトコールを学ぶ理由が凝縮されています。
プロトコールを上級のマナーと捉えたままでは、目の前の相手への心遣いが、同席する全員への公平を崩しかねません。
この記事では、プロトコールとマナーの違い、史実が示す誤読の代償、組織を代表する人が備えるべき視点をお伝えします。国際プロトコールアカデミー(ICPA)創設者・学院長の伯羽セシリア美麗が、条文と史実に基づいて解説します。
プロトコールとマナーの違いは、誰を代表するかにあります
マナーは個人と個人の間を律し、プロトコールは国家と組織の間を律します。この二つは混同されやすく、その混同は代償を伴います。
マナーとエチケットは、人と文化に属します。家庭や地域、時代によって異なり、ある場面で温かさを示す所作が、別の場面では馴れ馴れしさを示すこともあります。エドワード・T・ホールは、1950年代に米国の外務職員へ異文化コミュニケーションを教え、意味が言葉だけでなく文脈に宿ることを示しました(Hall 1976; Rogers, Hart and Miike 2002)。高コンテクスト文化と低コンテクスト文化の区別が表すのは、コミュニケーションの傾向であり、目の前の個人ではありません。
プロトコールが問うのは、別のことです。国家や組織が出会うとき、誰を先に迎え、誰がどこに座り、どう呼ぶのか。これは個人の好みでは決められません。好みは人によって異なり、当事者は、力の強さや感じのよさに左右されない基準で扱われなければならないからです。プロトコールの目的は、公平性と一貫性にあります。あらかじめ定めた一つの規則を、その場の全員に等しく適用する。それがプロトコールです。全体像はプロトコールとはに譲ります。
ウィーン条約は、この原理を条文で示しています。第14条1項は「使節団の長は、次の三の階級に分かたれる。」と定め、第16条1項は「使節団の長は、それぞれの階級においては、第十三条の規定による任務開始の日時の順序に従つて席次を占めるものとする。」と定めます(外務省 n.d.; United Nations 1961)。席次を決めるのは、主催者の好みではなく、日時という客観の基準です。
日本政府も、この領域を体系として扱っています。2018年5月に学習院大学で行われた外務省の外交講座では、大臣官房儀典官室の主査が、テーマを「国際儀礼(プロトコール)とは」として、序列・席次・テーブルプランを講演内容に掲げました(外務省 2018)。
| マナー・エチケット | プロトコール | |
|---|---|---|
| 働く場 | 個人と個人の間 | 国家と組織の間 |
| 拠りどころ | 慣習、育ち、文化 | 合意された規則、条約、確立した序列 |
| 変わるか | 人・場所・時代で変わる | 誰が同席しても一貫して適用する |
| 目的 | 心遣い | 公平性と一貫性 |
賓客を迎える主催者は、個人の好みか、確立した序列か、そのどちらかを適用しています。後者だけがプロトコールです。では、その序列を欠いたとき、何が起きるのでしょうか。史実が答えます。
序列と席次を欠いた場で、史実は何を記録したか
プロトコールの規則は、争いのあとに作られました。一つひとつの規則の背後に、それを必要とした衝突があります。
1661年9月30日、ロンドンでスウェーデンの新任大使を迎える行列が組まれました。在任中の各国大使は、行列に自らの馬車を加えます。フランス大使とスペイン大使はそれぞれが上位を主張し、双方の従者が路上で衝突しました(Pepys 1661; Jusserand 1892)。
争われたのは虚栄ではありません。大使は君主その人を体現する存在と理解され、行列の中の位置は、君主の格への評価そのものでした(Pepys Diary n.d.)。ルイ14世は賠償を求め、スペインはフランスの上位を認めました(Bouzidi n.d.)。
一般的な取り決めには、さらに一世紀半を要しました。1815年のウィーン会議で、列強は外交官の席次に関する規則を採択します。外交官を三つの階級に分け、同じ階級の中では、公式に到着を通知した日付の順に席次を定めました。1818年のエクス=ラ=シャペル会議の取り決めで、弁理公使という中間の階級が加わりました(US Department of State 1868; 1920)。エイリーン・デンザは、1815年の規則が席次をめぐる紛争を大きく減らしたこと、1961年の条約がその規則を現代の言葉で受け継いでいることを指摘しています(Denza 2008)。冒頭の第16条は、この系譜の末にあります。
誤読は、逆の形でも起こります。1793年のマカートニー使節団と乾隆帝の謁見については、儀礼を拒んだことが使節を挫いたという通説があります。しかしマカートニー自身の提案は、相互性に基づくものでした。同格の官僚が英国王の前で同じ礼を行うなら、自らも叩頭礼を行う、というものです。のちの研究は通説を改めました。ジェームズ・ヘヴィアは中国側の史料を読み、この出来事を単純な文化的誤解ではなく、二つの主権観の衝突として捉えています(Hevia 1995)。
教訓は、どちらかに礼儀が欠けていたということではありません。双方の間に合意された序列がなく、それぞれが相手の所作を自らの基準で読んだのです。現代のエグゼクティブは、かつての大使が立った位置に立っています。入室の前に、何を知っておくべきでしょうか。
エグゼクティブが国際プロトコールを学ぶ理由は、自分以外のものを代表するからです
海外で、エグゼクティブは個人としてではなく、組織を代表して話します。外交官がそうするように、相手に失礼を与えず、譲るべきでないものを譲らずに場に臨む。エグゼクティブが国際プロトコールを学ぶ理由は、そこにあります。
入室の前に、三つの問いがあります。
第一に、どの序列がこの場に適用されるのか。 各国は序列を定めており、儀典を担う機関がそれを運用します。米国では、大統領が国務省の儀典長室を通じて序列を定めます(US Department of State, 2 FAM 320)。日本では、外務省大臣官房に儀典官室が置かれ、その主査が先の外交講座で「国際儀礼(プロトコール)とは」を講じました(外務省 2018)。エグゼクティブの務めは、どの序列がその場を支配するのかを知り、推測せず、主催者に尋ねることです。
第二に、入口で誰が誰を迎えるのか。 誰を先に迎え、誰が先に通されるかは、敬意の表明として読まれます。1661年の事例が示すとおり、位置は、当事者の格への評価と受け取られるからです。正しく読むために必要なのは、本能や温かさではなく、事前に序列を知っていることです。
第三に、席は何を語るのか。 公式の場では、席は親しさではなく序列に従います。肩書は立場の表明であり、正しく呼ぶことは、準備してきたことを相手に伝えます。
実務の全体像は、姉妹記事のグローバルエグゼクティブにプロトコールが必要な理由にまとめています。
序列を知る人は、即興に頼る必要がありません。誤読は、序列を知らないまま臨む場で生まれます。この問いに対して、日本は欧州から借りたのではない、自らの長い答えを持っています。
日本独自のプロトコールの伝統 ― 二つの作法に通じるということ
プロトコールは、日本が欧州から借りたものではありません。日本は自らの儀礼を体系化した国であり、のちに欧州の体系と、独自の伝統を持つ当事者として向き合いました。
小笠原流は、小笠原長清が源頼朝に礼法と弓馬の術を教えた12世紀末に遡ると伝えます(小笠原流 n.d.)。1380年頃には、小笠原長秀が『三議一統』を著しました。礼法を総合的に記した最初の書物とされます(Lowry n.d.)。小笠原家は武家であり、その礼法は飾りではありませんでした。流派は、礼法を他の諸技術の土台と位置づけています(Lowry n.d.; 小笠原流 n.d.)。この伝統において、形は目的を持つ規律でした。
日本は、欧州の体系に相互性の原則で向き合いました。1869年、岩倉具視は、欧米へ使節を派遣することを、何よりも外交上の儀礼の問題だと論じています。西洋列強が公使を日本に送っている以上、礼として日本もまた使節を送り返すべきだ、という論です(JACAR n.d.)。1871年、岩倉使節団は横浜を出航します。三つの目的の第一は、条約を結んだ国々への聘問の礼でした。残る二つは、条約改正と、各国の法制度の調査でした(JACAR n.d.)。
ICPAは、これを二重の習熟として読みます。他国の手続きを学びながら、自国の伝統を手放さない。国際の場で求められるのは、借り物の作法ではなく、二つの作法に通じた人です。ICPAは、この立場から教えます。原理が先、形が後です。最後に、要点を三つに絞ります。
まとめ
- プロトコールは国家と組織の間を律し、マナーは個人の間を律します。目的は公平性と一貫性です。
- 史実は、誤読の代償を記録しています。1661年の路上の衝突、1815年の規則、改められた1793年の通説です。
- 組織を代表する人は、入室の前に序列を知ります。
エグゼクティブが国際プロトコールを学ぶ理由は、ここにあります。次の国際的な会合の前に、一つだけ自問してください。私はこの場で誰を代表し、この場にはどのような序列があらかじめ合意されているか。
ICPAで国際プロトコールを学ぶ
プロトコールは、生まれながらに備わるものではなく、学ぶものです。ICPAは、自分以外のものを代表する方々のために、二つのプログラムを用意しています。
- Global Business Protocol ― The Global Authority:国境を越えて仕事をするリーダーのための、国際プロトコールの土台です。
- Executive Protocol ― The Executive Pinnacle:組織を最高位で代表する方のための、ICPA最高峰のプログラムです。
まずはお話を、という方は、説明会のご案内をご覧ください。
関連記事
出典
- Bouzidi, D. (n.d.) ‘Louis XIV to d’Embrun, 1 January 1662’ (Archives du ministère des Affaires étrangères, Paris, Correspondance politique, Espagne, vol. 41, ff. 103v–104). HistoryLab (Modernalia). Available at: https://historylab.es/?p=5032
- Denza, E. (2008) Diplomatic Law: Commentary on the Vienna Convention on Diplomatic Relations. 3rd edn. Oxford: Oxford University Press.
- Hall, E.T. (1976) Beyond Culture. Garden City, NY: Anchor Press/Doubleday.
- Hevia, J.L. (1995) Cherishing Men from Afar: Qing Guest Ritual and the Macartney Embassy of 1793. Durham, NC: Duke University Press.
- Japan Center for Asian Historical Records (JACAR) (n.d.) ‘Dispatch of Iwakura Mission’, Explanatory Column, Meiji at 150: Special Internet Exhibition — The Iwakura Mission. Available at: https://jacar.go.jp/english/exhibition/iwakura_en/column/index.html
- Jusserand, J.J. (1892) A French Ambassador at the Court of Charles the Second. London: T. Fisher Unwin.
- Lowry, D. (n.d.) ‘Bowing: Ojirei’. Koryu.com. Available at: https://koryu.com/library/dlowry16/
- Ogasawara-ryū (小笠原流) (n.d.) ‘Ogasawara-ryū History’. Available at: https://ogasawara-ryu.gr.jp/english/about.html
- Pepys, S. (1661) Diary entry for 30 September 1661, The Diary of Samuel Pepys. Available at: https://www.pepysdiary.com/diary/1661/09/30/
- Pepys Diary (n.d.) ‘Godefroi d’Estrades’, Encyclopedia. Available at: https://www.pepysdiary.com/encyclopedia/3117/
- Rogers, E.M., Hart, W.B. and Miike, Y. (2002) ‘Edward T. Hall and the history of intercultural communication: the United States and Japan’, Keio Communication Review, 24, pp. 3–26.
- United Nations (1961) Vienna Convention on Diplomatic Relations, 18 April 1961, 500 UNTS 95, Articles 13, 14 and 16.
- US Department of State (1868) Papers Relating to the Foreign Relations of the United States, Part I. Available at: https://history.state.gov/historicaldocuments/frus1868p1/d227
- US Department of State (1920) Papers Relating to the Foreign Relations of the United States, Volume III.
- US Department of State (n.d.) Foreign Affairs Manual, 2 FAM 320: Precedence. Available at: https://fam.state.gov/FAM/02FAM/02FAM0320.html
- 外務省 (n.d.) 「外交関係に関するウィーン条約」外務省ウェブサイト(条約文). Available at: https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/htmls/B-S39%282%29-0335.html
- 外務省 (2018) 「外交講座」(2018年6月27日掲載。2018年5月9日、学習院大学。テーマ「国際儀礼(プロトコール)とは」). Available at: https://www.mofa.go.jp/mofaj/p_pd/dpr/page23_002560.html



