―― 天皇陛下との会見に映った、国際コミュニケーションの真髄
2025年10月27日、ドナルド·トランプ米大統領は天皇陛下との歴史的な会見に臨みました。
この一見華やかな外交の舞台裏では、国際儀礼(プロトコール)の厳格な「形式」と、人間的な温かさを通じた「友好の本質」が静かに交錯していました。
本稿は、朝日新聞社『AERA』の取材に基づき、
国際プロトコール·マナーアカデミー ICPA 創立学院長·白羽セシリア美麗(筆者)が、
「形式」と「本質」を軸に、国際儀礼の真意と日本的教養の価値を考察します。
(※出典:AERA記事はこちら → https://dot.asahi.com/articles/-/268509)
1|「形式の遵守」――異例の謙虚さと敬意の表現
国際儀礼(Protocol)は、国家と文化の尊厳を守るための「敬意の共通言語」です。
トランプ大統領の行動には、この言語を理解しようとする明確な努力が見られました。
外交儀礼とは、単なる形式ではなく、「心をかたちに表す技術」です。
その意図を読み取ると、彼の所作のひとつひとつが、真のコミュニケーションの試みであったことがわかります。
(1) 握手――力ではなく、心で交わされた瞬間
トランプ大統領は、これまでの「トランプ·シェイク」のような力強さを封じ、
驚くほど静かで、繊細な握手を選びました。
- 力の抑制:相手を圧する力を抑え、心を伝える柔らかさに変えた。
- 手の高さの配慮:陛下の手を自分より高い位置に保ち、敬意を可視化。
- 左手の添え:陛下が笑顔で手を握り続けられた際に、左手をそっと重ね、感謝を伝えた。
このジェスチャーは、西洋では親愛の表現であり、東洋的観点から見ても「相手を包み込む心の礼」として理解できます。
形式的には逸脱しても、人間的には完璧な「伝わる礼」でした。
(2) 姿勢と目線――目の高さに込めた平等と敬意
トランプ大統領は、会見中に背を伸ばすことなく、
椅子に深くもたれず、少し前傾して陛下の目線に合わせていました。
それは、「I see you as equal(私はあなたを対等に見る)」というサイン。
アメリカ的「対等」と、日本的「謙譲」が交わる、極めて象徴的な瞬間でした。
足幅を狭く、つま先を揃え、姿勢を安定させる所作も、無意識に近いレベルでの「威圧の回避」。
これはまさに、プロトコールの本質――相手に安心感を与える礼の体現です。
(3) 色彩の選択――服装に表れた文化的メッセージ
外交の場では、「服装は言葉以上に語る」といわれます。
この日、大統領が選んだのは、彼の代名詞である赤ではなく、黄金色(黄)のネクタイ。
赤は「力と主張」の象徴ですが、黄は日本では皇室の菊花、西洋では誠実と温和の色。
この色は偶然ではなく、明確なメッセージでした。
彼は力を見せるよりも、調和と友情を伝えることを選んだのです。
外交服飾における色の選択は、無言のコミュニケーション。
彼はそこにおいて、最も美しい敬意の色を選び取っていました。
2|アメリカ的「開かれた敬意」と日本的「静かな敬意」
この会見を理解するには、文化の違いを理解する必要があります。
アメリカと日本――両者の「敬意の形式」は正反対のようでいて、実は同じ目的を持っています。
(1) アメリカの文化に根づく「率直さ」
アメリカでは、「率直であること」=「誠実であること」です。笑顔、アイコンタクト、握手、触れる動作、そして指さしやジェスチャーは、すべて「心を開いている証」として受け取られます。
トランプ大統領の「Great man」という言葉も、その文化的背景の中で生まれたもの。
形式の言葉ではなく、心からの賛辞として語られた自然な表現だったのでしょう。
アメリカ文化では、形式の完璧さよりも、率直で人間的な温度が重視されます。
それが彼の外交スタイルでもあり、彼の国の象徴的な文化表現でもあります。
(2) 日本の皇室儀礼に息づく「間」と「調和」
対して、日本の皇室儀礼は、「乱さない」「目立たない」「保つ」ことを礼の核に置きます。沈黙、距離、柔らかな所作――それらは「相手の空間を尊重する敬意」を意味します。
日本では、相手を敬うとは「自分を控え、相手を立てる」こと。
この思想は、神道や仏教の根底に流れる「自然と調和する心」「他を包む心」に通じます。
私は、これこそが日本が世界に誇る「バランスと調和の文化」であり、
それを柔らかく受け入れる姿勢が、日本人としての誇りだと考えます。
3|調和の哲学――「受け入れること」は日本の強さである
外交において、他者を受け入れることは容易ではありません。
形式を破る行為は、時に違和感や反感を生むこともある。
しかし、天皇陛下はその瞬間を、微笑みと寛容さで包まれました。
この「受容の美学」こそが、日本の真の品格です。
日本文化の根底には、「調和(Wa)」と「間(Ma)」の哲学があります。
相手の異なる行動を否定せず、整えるように受け入れる。
それは、静かに世界を癒やす力――「和の知恵」です。
私はこの「和の心」こそ、現代の国際社会において、
最も必要とされているコミュニケーションの在り方だと信じています。
外交における「勝ち負け」よりも、「わかり合う」こと。
「形式を守る」よりも、「心を感じ取る」こと。
それが、真の国際教養と日本人の誇りではないでしょうか。
4|形式と本質の調和――プロトコールの完成形へ
今回の会見は、形式の評価で言えば100点満点ではないかもしれません。
しかし、外交儀礼の本質は「心が伝わったか」にあります。
天皇陛下の穏やかな微笑み、トランプ大統領の誠意ある態度。
その両者の調和は、まさに文化を超えた美しい瞬間でした。
もしもこの中に、日本式のお辞儀が加わっていたなら――
それは、形式と本質、東洋と西洋、力と優しさが融合した理想的な外交の美となっていたことでしょう。
私の考える「プロトコールの本質」
プロトコールとは、心を伝えるための秩序であり、愛を形にする言語です。
それは冷たいルールではなく、人と人が出会い、理解し合うための架け橋。
そして、その橋を美しく保つために必要なのは、バランスと調和の精神です。
日本の礼法に息づく「和(Wa)」の思想は、まさにこのバランスの象徴。
自らを抑え、相手を敬い、場を整える――それが私の考える真の国際教養です。
ICPAは、この「形と心の調和」を世界に伝えるために存在しています。
日本人の品格を世界に、そして世界の文化を日本に。
それが、私の信じるプロトコール教育の使命です。
関連リンク
朝日新聞社『AERA』掲載記事:
二度目の会見で見せたトランプ大統領の所作を専門家が分析。
詳細な採点と行動解析を通じ、儀礼と人間性の交錯を探ります。
(記事全文はこちら → https://dot.asahi.com/articles/-/268509)
執筆:白羽セシリア美麗(旧:村田セシリア真理)
国際プロトコール·マナーアカデミー ICPA 創立学院長
国際儀礼·外交マナー専門家
 
	
 





